コロナ禍を受けて変化が予想される卸売・小売マップ

巨大都市・東京への集中
 22年4月に経済産業省で実施されてきた「工業統計調査」の廃止のお知らせがありました。様々な工業の動きが分かる統計として活用されてきましたが、今後は「公的統計の整備に関する基本的な計画」(令和2年6月2日閣議決定)による経済統計の体系的整備に関する要請に基づき、経済構造実態調査の一部として実施されることが決まっています。
 今回は、21年に公表されている「経済構造調査」をもとに「卸売」・「小売」の地域別状況をまとめてみました。同調査の直近のものは20年6月1日に実施されたもので、記載されている数値は2019年の数値となっています。コロナ禍前は地域別にみるとどんな状況だったのか、「卸売」・「小売」の2つについてまとめてみました。
 まず「卸売」についてみていきます。「卸売」は47都道府県の平均年間商品販売額は約6兆5816億円で、最も大きな値となったのは「東京都」で約118兆3740億円です。2位の「大阪府」は約33兆1367億円、3位の「愛知県」は約24兆1228億円と「東京都」が飛び抜けて大きな値となっていることがわかります。ちなみに最小は「鳥取県」の約6439億円で、東京都と鳥取県を比較すると販売額は約184倍もの開きになります。上位10都道府県をみると、政令指定都市を有する都道府県が軒並み上位を占めています。

卸売はハブ都市を持つ都道府県が上位に
 さらにこの卸売販売額を同年の都道府県人口で割り、1人当たり卸売販売額でまとめてものが以下のものです。上位10都道府県をみると、上位3県は同じですが、4位以下は大きく様変わりしています。4位の「宮城県」は販売額の順位では10位でしたが1人当たり販売額では4位と大幅に順位を上げています。7位の「群馬県」は販売額では13位、8位の「石川県」は販売額では23位でしたので、これらの県も大幅なランクアップとなっています。9位に入っている「香川県」も販売額ランキングでは27位と中位に位置していますが1人当たり販売額でみると大幅にランクを上げる結果となっています。販売額でみると、単に都市規模の大きさによるところが大きくなっているのに対し、1人当たり販売額でみると地方における物流のハブになっている都市を含む県が上位県となっていることが分かります。卸売業ではさまざまな交通結節のよさが重要になってきますが、1人当たり販売額でみると、そうしたインフラ要素が影響していることが鮮明になります。

小売は大都市優位も地方では独立性も
 次に「小売」の都道府県別状況です。「小売」は47都道府県の平均年間商品販売額は約2兆9574億円と卸売の販売額よりも大幅に下回っています。最も大きな値となったのは卸売と同様に「東京都」で約19兆9739億円と全都道府県で唯一10兆円を突破する結果となりました。最小の「鳥取県」は約5831億円で、東京都と鳥取県を比較すると約34倍の開きがありますが、「卸売」よりは小幅な差にとどまっています。上位5県は「東京都」、「大阪府」、「神奈川県」、「愛知県」、「埼玉県」となっており「卸売」よりもさらに首都圏集中している状況となっています。
 「小売」についても1人当たり小売販売額でみてみると、1位は小売販売額同様に「東京都」で1人当たり販売額は14万3481円となっています。2位は「北海道」の12万2990円で、1位とのは他順位間ともに大差なく、「東京都」が飛び抜けた値にはなっていません。3位の「香川県」は、小売販売額のランキングで35位と下位にとどまっていますが、1人当たり販売額では大幅にランクを上げています。4位は東北最大の経済都市・仙台市がある「宮城県」、5位は「栃木県」が入りました。小売販売額は人口の多い都市を含む都道府県がランキングの上位に集中していますが、1人当たり販売額では大都市から一定の距離があり、足下での消費が一定行われている都道府県が含まれています。

アフターコロナを見据えた合従連衡のフェーズへ
 小売については、人口流動の影響を受けやすく、今後の人口減少によって一部の都道府県は減少傾向が加速されることが予想されます。直近ではコロナ禍によって地域間流動が減少したことで、小売を維持することが難しくなった地域もあります。地方都市に限らず、コロナ禍前と市場変質している点は多く、地域によっては単独の業態では成立することが困難になっている業態もあり、今後の動きが注目されます。卸売についても直取引の拡大が進展し、かつてと同様の規模を維持することは困難になっています。共同配送・共同物流などの移行も進んできており、今後はさらに大きな業態変革が予想される状況です。22年は人流がある程度回復し、アフターコロナを見据えた動きが本格化することが必至です。「卸売」「小売」ともコロナ禍による地域の変化を把握しながら、次世代の立地戦略を描く上で重要な1年となりそうです。


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